AIエージェントで社内業務を効率化した進め方。対象業務の選び方と効果の測り方
執筆: 株式会社センダー(AI・データを活用したマーケティング支援)
AIエージェントで社内業務を効率化するとき、成果が出るかどうかは**対象業務の選び方でほぼ決まります。**繰り返し発生し、手順が言葉で説明でき、結果の正しさを機械的に確認できる業務が向いています。逆に、毎回判断が変わる業務や、正しさの基準が人によって違う業務では、確認の手間が増えて差し引きの効果が出ません。
この記事では、対象業務の選び方、1つを最後まで作り切る手順、効果の測り方、そして対象を広げるときの構成を整理します。2026年8月時点の情報です。
対象業務の選び方
次の4つを満たす業務から選んでください。
- 繰り返し発生する — 月1回以上の頻度がある。年に数回の業務では、作る手間が回収できません
- 手順が言葉で説明できる — 担当者が口頭で新人に教えられる程度に手順が定まっている
- 結果の正しさを確認できる — 出力が正しいかどうかを、数字の一致や件数の照合など機械的に判定できる
- 失敗しても取り返しがつく — 間違った出力が出ても、気づいて直せる。取り消しの効かない処理は最初の対象にしない
この4つで絞ると、多くの企業で残るのは次のような業務です。
- 定期的なレポートの作成(集計と整形)
- 問い合わせ内容の分類と集計
- 定型的な返信文の下書き
- 複数のシステムに分かれた記録の突き合わせ
- 資料の要約と、決まった形式への転記
逆に最初の対象にしないほうがよいのは、価格や条件を最終的に決める業務、顧客へそのまま送る文書の確定、取り消しの効かない登録や送信です。これらは、間違いに気づけないまま外部へ出るためです。
1つに絞って最後まで作り切る
複数の業務を並行して進めると、どれも途中で止まります。対象は1つに絞り、完了条件を満たすまで他に着手しないでください。
進め方は次の順序になります。
- 現在の手順を書き出す — 担当者が実際にやっている手順を、飛ばさずに文章にします。ここが最も時間がかかりますが、省略できません
- 共通の設定を作る — 社内で使っている用語、データの置き場所、やってはいけないことを1つのファイルにまとめます。毎回説明する手間がなくなります
- その業務用の手順を作る — 1で書き出した手順を、繰り返し呼び出せる形にします
- 実データで動かして直す — 想定と違う出力が出るたびに、原因を手順側に反映します
- 担当者だけで完了させる — 支援なしで最後まで通ることを確認します
完了条件は「1回できた」ではありません。支援なしで同じ作業を続けて完了できることを条件にしてください。1回だけの成功は、たまたま条件が合っただけの場合があります。
期間の目安は、業務の複雑さにもよりますが、1〜2か月です。これより短い見込みなら対象が小さすぎ、長い見込みなら対象を分割してください。
効果の測り方
作業時間の自己申告は使わないでください。申告値は検証できず、導入前の値も残っていないため比較になりません。記録が残る指標を使います。
開発部門を持つ企業向けの一般的な指標は、そのままでは使えません。次のように置き換えます。
| 一般的な指標 | 開発部門のない企業での置き換え | 記録の取り方 |
|---|---|---|
| 変更が取り込まれるまでの時間 | 依頼を受けてから成果物が出るまでの日数 | 依頼と納品の日時 |
| 確認が完了するまでの時間 | 作られたものを人が確認し、使い始めるまでの日数 | 確認の開始と完了の日時 |
| リリース後の不具合件数 | 作った仕組みが止まった回数と、出た誤りの件数 | 対応の記録 |
| 利用率 | 自分で動かす担当者の中での稼働率 | 利用の記録 |
**最も重要なのは、導入前の値を先に取ることです。**取り終える前に着手すると、比較対象が残りません。対象業務を決めた時点で、上の表の記録を1か月分は取っておいてください。
利用率については、分母の取り方に注意が必要です。**全社員を分母にすると、ツールを使わない職種が含まれ、達成し得ない目標になります。**分母は自分で動かす担当者に限定し、他の社員については「作られた成果物が使われた回数」で測ってください。
対象を広げるときの構成
1つの業務が回り始めたら、対象を広げます。ここで全社員に配ろうとせず、作る人と使う人を分けた構成にしてください。
- 作る人 — 自分でAIエージェントを動かす担当者。3〜5名に限定します
- 使う人 — 全社。作られた成果物(集計結果、下書き、ダッシュボード)を受け取るだけで、ツールは触りません
この構成にすると、教育とサポートの負担が現実的な範囲に収まります。全員に操作を覚えてもらう前提を置くと、教育の工数が人数に比例して増え、実際には数名しか使わない状態になります。
あわせて、次の2つを決めておきます。
- 推進責任者と相談役 — 全体の方針を決める人と、担当者が詰まったときに聞く人。同じ人でも構いません
- 質問の受け口 — 「日常の相談」「手順の確認」「不具合の報告」の3つに分けます。全部を同じ場所に集めると、緊急のものが埋もれます
月1回、作った担当者が自分の成果物を他の社員に見せる場を設けると、次の対象業務の候補が現場から出てきます。
進める前に決めておくこと
対象業務を選ぶ前に、扱ってよいデータの範囲を決めておいてください。業務データには顧客の氏名や連絡先が含まれていることが多く、これを決めないまま着手すると、途中で止まります。
社内の業務データを「AIに渡してよい」「集計した値だけを持ち出す」「渡さない」の3つに分類し、分類ごとの操作手順まで文書化します。当社では、氏名・住所・電話番号・本文を取り出さずに集計した値だけを得る手順を実際の業務システムで運用しており、この形なら個人情報を送信せずに分析ができます。
データの取り扱いと設定の詳細はClaude Codeを業務で使うときのデータの扱いと設定で整理しています。
うまくいかないときに確認すること
対象業務が回らない場合、原因は次のいずれかであることが多くなります。
- 手順が定まっていなかった — 担当者によってやり方が違う業務だった。まず人の手順を統一する
- 正しさを確認できなかった — 出力が合っているかを判定する基準がなかった。基準を先に決める
- 対象が大きすぎた — 1つの業務に見えて、実は複数の業務が連なっていた。分割する
- 担当者の時間が確保されていなかった — 通常業務と並行では進みません。週に数時間を明示的に確保する
4つ目が最も多く見られます。**担当者の時間を確保しないまま着手すると、他の業務に押されて止まります。**着手を決める段階で、週あたりの時間を上長と合意しておいてください。
定着しない場合の原因についてはAI導入が定着しない原因と内製化までの条件で扱っています。
検索されている語から見た関心の所在
当社が調べたところ、業務効率化を目的とした検索には次の傾向があります。
| キーワード | 月間検索数 | 12か月変化率 |
|---|---|---|
| claude code 業務効率化 | 90 | +115% |
| ai 業務改善 | 320 | +98% |
| ai 内製化 | 70 | +42% |
| aiエージェント 業務効率化 | 50 | -8% |
出典: ラッコキーワードのデータ(2026年8月時点・日本国内)をもとにした当社調査
「claude code 業務効率化」は12か月で115%増、「AI 業務改善」は98%増でした。いずれも検索数そのものは小さいものの、伸び率が高い語です。特定の製品名と業務改善を組み合わせた検索が増えており、ツールを知る段階から、自社の業務にどう当てはめるかを調べる段階へ移りつつあると見込まれます(根拠: 製品名単体の検索が減少している一方、業務改善を伴う語が増加しているため)。
業務の棚卸しのやり方
対象業務を選ぶには、まず候補を洗い出す必要があります。頭の中で考えるより、次の手順で書き出したほうが漏れが減ります。
- 直近1か月に発生した業務を、担当者ごとに書き出す。「毎月やっていること」を思い出そうとすると、頻度の低いものが漏れます。実際のカレンダーや作業記録から拾ってください。
- **1件あたりの所要時間と、月あたりの発生回数を記入する。**正確でなくてかまいません。30分単位の概算で十分です。
- **月あたりの合計時間で並べ替える。**上位に来たものが候補です。1件あたりが短くても、回数が多ければ合計は大きくなります。
- **上位から順に、4つの条件で判定する。**繰り返し発生するか、手順が言葉で説明できるか、正しさを機械的に確認できるか、失敗しても取り返しがつくか。
- 4条件をすべて満たす最上位のものを、最初の対象にする。
3の並べ替えで、想定と違う業務が上位に来ることがあります。**「大変だと感じている業務」と「合計時間が長い業務」は一致しません。**感覚ではなく、時間の合計で選んでください。
4で条件を満たさない場合、条件を満たすように業務側を変えられないかを検討します。特に多いのが「手順が担当者ごとに違う」ケースで、この場合はまず人の手順を統一するのが先になります。手順の統一は、AIを使うかどうかに関わらず効果があります。
進め方の型
対象業務が決まったら、次の型で進めると詰まりにくくなります。
第1週:現在の手順を書き出す
担当者が実際にやっている手順を、飛ばさずに文章にします。「言うまでもない」と省略された部分に、実は判断が入っていることが多くあります。書き出した手順を別の人に読ませて、それだけで再現できるかを確認してください。
第2〜3週:共通の設定と、その業務用の手順を作る
社内で使っている用語、データの置き場所、やってはいけないことを1つのファイルにまとめます。そのうえで、第1週で書き出した手順を、繰り返し呼び出せる形にします。
第4〜6週:実データで動かして直す
想定と違う出力が出るたびに、原因を手順側に反映します。**ここで「その場で指示を足して直す」対応を続けると、手順が育ちません。**出力がずれたら、次回から同じずれが起きないように手順を直してください。
第7〜8週:担当者だけで完了させる
支援なしで最後まで通ることを、続けて確認します。1回だけの成功では判断できません。
この型で1件目を通すと、2件目以降は短い期間で立ち上がります。1件目を通すこと自体が、社内の型を作る作業になります。
よくある質問
どのくらいの期間で効果が出ますか
対象業務が1つ回るまでで1〜2か月です。ただし、これは「その業務が担当者だけで完了できる状態になるまで」の期間で、投資の回収とは別です。回収の見込みは、対象業務の頻度と、削減できる工数の実測から計算してください。他社の公表値をそのまま自社の見込みに使わないでください。開発フローや体制が違えば結果も変わります。
複数の業務を同時に進めてはいけませんか
最初の1つが完了するまでは避けてください。並行して進めると、詰まったときにどちらも止まります。1つ目で手順の作り方と確認の仕方が分かれば、2つ目以降は短い期間で立ち上がります。1つ目を通すことが、実質的に社内の型を作る作業になります。
効果が出なかった場合はどうしますか
着手する前に、止める基準を決めておいてください。「担当者が支援なしで作業を再現できない状態が続く場合は、対象業務を変えるか終了する」といった形です。基準がないまま続けると、成果が出ない状態でも止める判断ができません。対象業務の選定を誤っただけの場合もあるため、いきなり全体を終了せず、対象を変えて試す選択肢も残しておいてください。
対象業務が見つからない場合はどうしますか
業務の棚卸しをやり直してください。上の手順3で合計時間の順に並べたとき、上位に条件を満たす業務がない場合は、対象業務そのものより先に、業務側の整理が必要な状態です。手順が担当者ごとに違う、正しさの基準が決まっていない、といった状態は、AIを使うかどうかに関わらず改善の余地があります。この整理を先に行うと、対象業務の候補が出てきます。
途中で対象業務を変えてもよいですか
変えてかまいません。ただし、変える理由を記録してください。「難しかった」ではなく、4つの条件のどれを満たしていなかったのかを特定します。多いのは「手順が言葉で説明できなかった」と「正しさを機械的に確認できなかった」の2つです。理由を記録しておくと、次の対象を選ぶときの判断材料になります。
担当者が異動・退職した場合はどうなりますか
手順が文書として残っていれば続きます。残っていなければ止まります。この差は大きいため、最初の対象業務を進める段階から、手順書を作りながら進めてください。作り終えてから文書化しようとすると、細かい判断を思い出せません。あわせて、同じ業務を扱える担当者を最低2名にしておくと、1名の異動で止まる状態を避けられます。
小さな業務から始めるべきですか、大きな業務から始めるべきですか
合計時間の順で選んでください。小さすぎる業務は、作る手間が回収できません。大きすぎる業務は、途中で止まります。目安としては、1〜2か月で完了条件に届く規模です。見込みがこれより短ければ対象が小さく、長ければ分割してください。判断に迷う場合は、その業務を分割できるかを検討し、分割できるなら分割した単位で着手してください。
まとめ
- 対象業務は繰り返し発生し、手順が説明でき、正しさを確認でき、失敗しても取り返しがつくものから選びます。
- **1つに絞って最後まで作り切ってください。**完了条件は「1回できた」ではなく「支援なしで続けて完了できる」です。
- 効果は導入前の値を先に取ってから測ります。作業時間の自己申告は使いません。
- 対象を広げるときは作る人3〜5名と使う人(全社)を分けた構成にします。全員に操作を覚えてもらう前提を置かないでください。
- 回らない原因で最も多いのは担当者の時間が確保されていないことです。着手前に週あたりの時間を合意してください。
自社で進める場合は、扱ってよいデータの範囲を決めてから、上の4条件で対象業務を1つ選んでください。対象業務の選定や進め方を相談したい場合は、お問い合わせからご相談いただけます。当社ではAIエージェント導入・構築支援として、業務を1つ選んで担当者が自分で回せる状態にするまでを支援しています。非エンジニアの担当者が使い始めるまでの手順は非エンジニアがClaude Codeを業務で使えるようになるまでで扱っています。



