中小企業のAI導入。専任者がいない会社での進め方
執筆: 株式会社センダー(AI・データを活用したマーケティング支援)
専任のIT担当がいない会社でAI導入を進めるときは、対象業務を1つに絞り、兼任の推進役の負担を最小限にする設計から始めます。大企業と手順自体は変わりませんが、使える時間と人数が限られるため、対象の選び方と引き継ぎの備えが結果を左右します。この記事では、専任者がいない前提での進め方を説明します。2026年8月時点の情報です。
ラッコキーワードのデータ(2026年8月時点)をもとにした当社調査では、中小企業のAI導入に関する語の月間検索数は180で、12か月で62〜86%増加していました。検索数自体は多くありませんが、増加が続いています。
大企業と条件が違う3点
| 条件 | 専任者がいない会社での実際 | 影響 |
|---|---|---|
| 推進役 | 経営者または現場の担当者が兼任 | 使える時間が週数時間に限られる |
| 判断の速さ | 決裁の階層が少ない | 着手の決定は速い |
| 引き継ぎ | 担当できる人が1人しかいないことが多い | 異動・退職で仕組みが止まりやすい |
不利な条件だけではありません。**決裁の階層が少ないぶん、対象業務を決めてから着手するまでが短く済みます。**この利点を活かすには、検討の期間を延ばさず、1業務に絞って早く動かすことが有効です。
対象業務の選び方
限られた時間で成果を出すには、選ぶ基準を絞ります。次の4つをすべて満たす業務から始めます。
- 毎日または毎週、必ず発生する: 月1回の業務では、効果の確認までに時間がかかりすぎます
- 担当者が1人で完結している: 複数部署をまたぐ業務は、調整だけで推進役の時間を使い切ります
- 手順を書き出せる: 「見れば分かる」で回っている業務は、基準を言葉にする工程が別途必要です
- 間違えても取り消せる: 送金や対外的な確定連絡は、最初の対象に向きません
この4つを満たす業務は、多くの場合「集計してまとめる」「決まった形式で通知する」「入ってきた文章を分類する」のいずれかです。業務の型についてはAIによる業務効率化の事例にまとめています。
時間を金額に換算してから決める
候補が複数あるときは、「1回あたりの時間 × 月の回数 × 担当者の人件費単価」を計算し、金額の大きい順に並べます。金額にする理由は2つあります。優先順位を感覚ではなく数値で決められること、そして補助金を申請する場合にその数値がそのまま計画の根拠になることです。
手順の詳細はAI導入の進め方で説明しています。
推進役の負担を抑える3つの工夫
工夫1. 決めることと、作ることを分ける
推進役が担うのは「どの業務を対象にするか」「扱ってよいデータはどれか」「完成をどう判定するか」の3つの決定です。実装まで兼任すると、本業との両立が難しくなります。**実装を外部に任せる場合でも、この3つは社内に残ります。**逆に言えば、この3つ以外は委託できます。
工夫2. 打ち合わせの回数と長さを先に決める
期間中の打ち合わせが不定期だと、推進役の予定が読めません。当社の標準では、初期は週1回45分の進捗確認、運用開始後は月2回60分の改善会議としています。回数と長さを先に決めておくと、本業との調整がしやすくなります。
工夫3. 完成の判定基準を先に決める
「これで完成でよいか」の判断が推進役に都度求められると、負担が積み上がります。「事前に合意したテストケースを通過したら検収」と決めておけば、判定は基準との照合で済みます。
担当者交代で止めないための備え
専任者がいない会社で最も多い止まり方は、作った人が異動・退職して動かなくなることです。次の3つを稼働前に済ませておきます。
- 設定内容と手順を文書に残す: 画面の操作手順、接続先、更新が必要な箇所を記録します
- 2人以上が操作できる状態にする: 1人しか触れない仕組みは、その人の不在時に止まります
- 自社のアカウント内に置く: 支援会社の環境で動いている場合、契約が終わると使えなくなることがあります
3つ目は発注時に確認する項目です。契約前に確認すべき項目はAIコンサルティング・AI導入支援の選び方にまとめています。
費用の考え方
金額の妥当性は、他社の相場ではなく自社の回収期間で判断します。
月あたりの削減額 = 現在のコスト − 導入後に残る作業のコスト − 運用費用
回収期間(か月) = 初期費用 ÷ 月あたりの削減額
「導入後に残る作業のコスト」を0にしないでください。確認と修正の時間は残ります。内訳の項目と計算の詳細はAI導入の費用の考え方で説明しています。
補助金・助成金
AI導入に使える制度がある場合があります。ただし、申請しても採択されるとは限りません。制度の名称・補助率・上限・時期は年度で変わるため、具体的な条件は最新の公募要領で確認してください(出典: 各制度の公表情報をもとにした当社調査・2026年8月時点)。
申請書類には、対象業務の現在のコストと導入後の効果の試算が必要になります。上の金額換算をしていれば、そのまま根拠として使えます。制度の種類と進め方はAI導入に使える補助金で解説しています。
進める順番
- 繰り返し発生している業務を書き出す
- 「1回あたりの時間 × 月の回数 × 人件費単価」で金額に換算する
- 上の4条件を満たす業務を1つ選ぶ
- 扱ってよいデータの線引きを決める
- 完成の判定基準(テストケース)を決める
- 実装し、本番で動かす
- 手順を文書化し、2人以上が操作できる状態にする
- 削減された時間を導入前の実測値と比較する
- 効果が確認できたら、3に戻って次の業務へ広げる
当社の標準では、業務診断に3週間、1業務の実装から本番稼働までに6〜8週間です。
推進役の選び方
専任者を置けない場合、誰を推進役にするかが結果を左右します。適しているのは次の条件を満たす人です。
- 対象業務の実務を知っている: どこで手が止まるか、例外がどれだけあるかを把握している
- 社内の関係者に話を通せる: 他部署への確認や、担当者への聞き取りが必要になります
- 週に数時間を確保できる: 本業が繁忙期と重なる時期は避けます
技術の知識は条件に入りません。実装を外部に任せる場合、推進役に必要なのは業務の知識と社内の調整力です。
経営者が兼任する場合
決裁が速く進む利点があります。一方、聞き取りや検収の細かい確認まで担うと時間が足りなくなります。決定は経営者、実務の確認は現場の担当者、と分けると進みます。
現場の担当者が兼任する場合
業務の実態を把握している利点があります。一方、対象業務の決定や費用の判断には決裁が必要なため、経営者との確認の場を定期的に設けておかないと、そこで止まります。
よくある止まり方と対処
| 止まり方 | 主な原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 検討が半年以上続く | 対象業務が決まらない | 金額換算をして、上位1つに絞る |
| 実装の途中で止まる | 判断基準が言語化されていない | 過去のデータを10件並べ、判断理由を1件ずつ書き出す |
| 稼働したが使われない | 成果物の受け取り手が決まっていない | 誰がいつ見て、どう動くかを決める |
| 担当者の異動で止まった | 手順が文書化されていない | 稼働前に文書化と2人体制を済ませる |
| 効果を説明できない | 導入前の作業時間を測っていない | 着手前に1〜2週間の実測を必ず行う |
最後の1つは、あとから取り戻せません。着手前の実測だけは、必ず先に済ませてください。
全社に広げる前に確認すること
最初の1業務が安定したあと、次に進む前に3つを確認します。
1. 削減された時間が数値で確認できているか
導入前の実測値と比較して、実際に減っているかを見ます。減っていない場合、対象の選び方に原因があります。次の業務でも同じ選び方をすると、同じ結果になります。
2. 推進役以外が運用できているか
推進役しか触れない状態のまま業務を増やすと、その人に負荷が集中します。1業務目の運用を別の担当者へ引き継げているかを確認します。
3. 次の対象業務が金額換算で決まっているか
1業務目がうまくいくと、要望が集まります。感覚ではなく、最初に作った金額換算の一覧に戻って順番を決めます。
よくある質問
社員数が少なくても効果はありますか。
対象業務の発生頻度によります。社員数ではなく、「1回あたりの時間 × 月の回数」が効果の大きさを決めます。少人数の会社ほど1人が複数の業務を兼務しているため、繰り返しの作業が集中していることがあります。まず金額換算をして判断してください。
AIに詳しい社員がいませんが、始められますか。
始められます。推進役に必要なのは技術の知識ではなく、対象業務の実務を知っていることです。どの業務が繰り返されているか、どこで手が止まるかを把握している人が向いています。実装を外部に任せる場合でも、対象業務の決定・データの線引き・完成の判定基準は社内で決める必要があります。
まず何から手をつければよいですか。
繰り返し発生している業務の書き出しと、時間の実測です。担当者の記憶による申告ではなく、1〜2週間の実測をおすすめします。この数値がないと、効果の確認も、補助金の申請書類の作成もできません。
全社に広げるのはいつからですか。
最初の1業務が安定して稼働し、削減された時間を数値で確認できてからです。順番を逆にすると、効果の確認できない仕組みが複数動く状態になり、止めるか続けるかの判断ができなくなります。
まとめ
- 対象業務は「毎日または毎週発生」「1人で完結」「手順を書き出せる」「間違えても取り消せる」の4条件で選ぶ
- 推進役が担うのは、対象業務の決定・データの線引き・完成の判定基準の3つ。それ以外は委託できる
- 打ち合わせの回数と長さを先に決めて、本業との調整をしやすくする
- 担当者交代で止めないために、手順の文書化・2人以上の操作・自社アカウント内への設置を稼働前に済ませる
- 費用は回収期間で判断する。導入後に残る確認・修正の時間を0にしない
自社で進める場合は、繰り返し発生している業務の書き出しと時間の実測から始めてください。対象業務の選定や進め方から相談したい場合は、お問い合わせからご相談いただけます。ご相談は無料です。支援内容はAI Growth Opsに、実際に構築した仕組みは実績にまとめています。



