生成AI研修の設計。社内で使える人を増やすまでの内容と順番
執筆: 株式会社センダー(AI・データを活用したマーケティング支援)
生成AIの社内研修は、①利用ルールの共有、②全員共通の基本操作、③部署ごとの実務への当てはめ、④定着の確認、の4段階に分けて設計します。1回の講習で終える形にすると、受講後に業務で使われないまま終わりやすくなります。研修より先に決めておくのは、扱ってよいデータの線引きです。2026年8月時点の情報です。
ラッコキーワードのデータ(2026年8月時点)をもとにした当社調査では、「生成AI研修」の月間検索数は1,000、社内規程に関する語は合計140でした。研修を検討する人に対して、規程の整備を調べる人は1割程度です。順番としては規程が先になるため、この差は実務上のつまずきどころを示していると見込まれます(根拠: 上記の検索数の差と、後述する研修の前提条件)。
研修の前に決めておく1つのこと
研修で最初に受ける質問は、多くの場合「顧客の情報を入力してよいか」です。ここが決まっていないと、受講者は業務で使う判断ができません。
先に決めるのは次の3点です。
- 入力してよいデータと、してはいけないデータの区分
- 使ってよいサービスと、その利用形態(入力内容が学習に使われる設定かどうか)
- 生成物を対外的に出すときの確認手順
決め方の具体的な手順は社内のAI利用規程・ガイドラインの作り方で解説しています。研修の第1段階は、この内容を全員に共有する場として使います。
研修の4段階
段階1. 利用ルールの共有(全員・1回)
決めた3点を全員に伝えます。この段階の目的は操作の習得ではなく、判断の基準をそろえることです。次の形で伝えると、受講後に迷いが残りにくくなります。
- 具体例で示す(「顧客名を含む問い合わせ文をそのまま貼るのは不可」など)
- 判断に迷ったときの相談先を明示する
- 禁止だけでなく、使ってよい範囲も同じ分量で示す
禁止事項だけを伝えると、安全側に寄りすぎて誰も使わない状態になります。
段階2. 全員共通の基本操作(全員・1回)
全部署に共通する使い方を扱います。文章の要約、下書きの作成、表形式への整理、翻訳などです。ここでは、次の2点を必ず含めます。
- 指示の書き方: 目的・前提・出力形式を分けて書くと結果が安定すること
- 確認の必要性: 出力に事実と異なる内容が含まれ得ること。数値・固有名詞・日付は必ず一次情報で確認すること
段階3. 部署ごとの実務への当てはめ(部署別・複数回)
ここが最も重要で、省略されやすい段階です。**受講者が実際に抱えている業務を持ち込み、その場で試す形にします。**共通研修だけで終えると、「便利そうだが自分の仕事では使わない」で止まります。
進め方は次のとおりです。
- 事前に、各自が繰り返し行っている業務を1つ書き出してもらう
- 研修の場で、その業務に対する指示文を作る
- 実際に動かし、結果を確認する
- うまくいかなかった場合、原因(前提の不足、出力形式の指定漏れ、そもそも向いていない業務)を切り分ける
4番目の切り分けができると、受講者は「どの業務に向くか」を自分で判断できるようになります。
段階4. 定着の確認(1〜3か月後)
研修から一定期間後に、実際に使われているかを確認します。確認するのは満足度ではなく、業務での使用状況です。
- 業務で使った回数(自己申告でよい)
- 使った業務の種類
- 使わなくなった人の理由
使われていない場合、原因は研修の内容ではなく、対象業務の選び方や、ルールが曖昧で判断できないことにある場合があります。定着しない原因の切り分けはAI導入が定着しない原因で解説しています。
1回で終わらせない理由
研修を1回の講習にまとめると、次の状態になりやすくなります。
| 起きること | 原因 |
|---|---|
| 受講直後は使うが、1か月後に止まる | 自分の業務に当てはめる段階(段階3)がない |
| 一部の人だけが使い続ける | もともと関心のある人だけが当てはめられた |
| 使ってよいか分からず手が止まる | 段階1のルールが具体例で示されていない |
| 出力をそのまま提出してしまう | 段階2の確認の必要性が伝わっていない |
4段階に分けるのは、これらを個別に潰すためです。段階1と2は同じ日に実施しても構いませんが、段階3は必ず別の回として、部署ごとに設けます。
研修の効果をどう確認するか
「満足度が高かった」では、次に何をすべきか決まりません。次の2つを記録します。
1. 受講前後で、対象業務の作業時間がどう変わったか
研修前に、対象とする業務の作業時間を実測しておきます。担当者の記憶による申告ではなく、1〜2週間の実測をおすすめします。この数値がないと、効果を数値で示せません。
2. 業務で使っている人の割合が、期間とともにどう変わったか
受講直後、1か月後、3か月後で確認します。下がっている場合は、段階3か段階4に原因があります。
なお、研修で扱えるのは「人が都度使う」範囲までです。毎日・毎週決まって発生する定型業務は、研修で人の作業を速くするより、仕組みとして自動化するほうが確実です。その判断の手順はAI導入の進め方で説明しています。
外部に頼む範囲と、社内に残る範囲
| 外部に頼めること | 社内に残ること |
|---|---|
| 講義の実施、教材の作成 | 扱ってよいデータの線引き |
| 指示の書き方・確認方法の解説 | 部署ごとの対象業務の選定 |
| 部署別の実務当てはめの進行 | 定着確認の実施と、その後の判断 |
| 定着状況の集計方法の設計 | 相談先となる社内の担当者の指名 |
**相談先の担当者を社内に置かないと、研修後に判断が止まります。**外部に全部を任せる形では、受講者が迷ったときの行き先がなくなります。
教材に入れる項目
研修の教材は、受講後に手元で見返せる形にします。次の項目を含めます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使ってよいデータの一覧 | 区分ごとに、具体例を添えて示す |
| 使ってよいサービスと設定 | サービス名と、確認すべき設定項目 |
| 指示の書き方の型 | 目的・前提・出力形式を分けて書く例を3つ以上 |
| 確認が必要な項目 | 数値・固有名詞・日付は一次情報で照合する |
| 部署別の使用例 | 受講者の実務に近い例を、部署ごとに用意する |
| 相談先 | 判断に迷ったときの社内の連絡先 |
**指示の書き方の型は、実例を複数載せてください。**説明文だけでは、受講後に自分の業務へ当てはめられません。悪い例と良い例を並べると、違いが伝わりやすくなります。
社内で講師を育てる場合
外部の講師に毎回頼むより、社内で講師役を持つほうが、部署別の実務当てはめ(段階3)を継続しやすくなります。
講師役に向いている人
- 対象部署の実務を知っている
- 自分の業務ですでに使っている
- うまくいかなかった経験を説明できる
3つ目が重要です。成功例しか話せない講師では、受講者がつまずいたときの対処を伝えられません。
進め方
- 各部署から1名ずつ候補を出す
- 外部講師の段階3に、講師役の候補として同席してもらう
- 次の回は候補が進行し、外部講師が補助に回る
- 3回目以降は社内で実施する
この形にすると、部署の異動や新入社員の受け入れのたびに外部へ依頼する必要がなくなります。
研修と自動化の使い分け
同じ業務でも、人が都度行う作業なのか、決まった手順で繰り返す作業なのかで、打ち手が変わります。
| 業務の性質 | 打ち手 | 理由 |
|---|---|---|
| 内容が毎回違い、人の判断が必要 | 研修 | 都度の指示の質が結果を決めるため |
| 毎日・毎週、決まった手順で発生する | 自動化 | 人が速くなるより、仕組みにするほうが確実 |
| 手順は決まっているが、月1回程度 | 研修 | 自動化の費用に見合わない場合が多い |
研修で全体の底上げをしながら、頻度の高い定型業務は自動化の対象として切り出す、という組み合わせになります。自動化する業務の選び方はAI導入の進め方で説明しています。
受講者からよく出る質問への備え
研修の場で必ず出る質問があります。回答を事前に用意しておくと、その場で判断が止まりません。
- 「顧客名や取引先名を入力してよいか」: 規程の区分に沿って、可否と代替手段(伏せ字にする、要約してから渡す)を示します
- 「出力をそのまま社外に出してよいか」: 確認手順を示します。数値・固有名詞・日付の照合は必須である旨を明記します
- 「間違った情報が出たらどうするか」: 一次情報で確認する手順と、相談先を示します
- 「今までのやり方のほうが速い場合は」: 無理に使う必要はない旨を明示します。向かない業務があることを認めると、向く業務での利用は進みます
4つ目を伝えていない研修では、受講者が「使わなければならない」と受け取り、向かない業務にまで使って失敗することがあります。
よくある質問
全社員に受けさせるべきですか。
段階1(利用ルールの共有)は全員が対象です。ルールを知らない人が1人でもいると、情報の取り扱いの面で穴になります。段階2以降は、業務での利用が見込まれる部署から順に進めても構いません。
研修だけで業務は効率化しますか。
人が都度行う作業については、指示の書き方が身につくことで速くなります。一方、毎日・毎週決まって発生する定型業務は、研修では変わりません。この種の業務は仕組みとして自動化する対象です。研修と自動化は、対象が異なります。
どのくらいの頻度で実施すべきですか。
段階1と2は新入社員・異動者の受け入れに合わせて、段階3は部署ごとに対象業務が変わったタイミングで実施します。サービスの仕様変更が頻繁なため、段階2の内容は定期的に見直しが必要です。
受講者が使わなくなる場合、何を見直しますか。
先に、段階3で扱った業務が本人の実務と合っていたかを確認します。次に、段階1のルールが具体例で示されていて、判断に迷わない状態かを確認します。研修の教材や講師の質より、この2点が原因であることが多くあります。
まとめ
- 研修より先に、扱ってよいデータの線引きと、使ってよいサービス、生成物の確認手順を決める
- 研修は、①ルールの共有 ②全員共通の基本操作 ③部署別の実務当てはめ ④定着の確認、の4段階に分ける
- 段階3は必ず別の回として部署ごとに設ける。ここを省くと受講後に使われない
- 効果は満足度ではなく、対象業務の作業時間と、業務で使っている人の割合の推移で確認する
- 定型業務は研修ではなく自動化の対象。研修と自動化は対象が異なる
自社で進める場合は、扱ってよいデータの線引きから着手してください。研修の設計や、部署別の実務当てはめの進行から相談したい場合は、お問い合わせからご相談いただけます。ご相談は無料です。支援内容はAI Growth Opsにまとめています。



