社内のAI利用規程・ガイドラインの作り方。9項目の構成と、決めるべき3つの柱

執筆: 株式会社センダー(AI・データを活用したマーケティング支援)

生成AIの社内利用規程は、**何に使ってよいか(利用範囲)、何を入力してはいけないか(禁止事項)、生成されたものをどう扱うか(確認の規約)**の3つが決まっていれば、利用者は判断に迷いません。この3つが柱で、残りは運用のための付随項目です。

逆に、この3つが曖昧なまま細かい手続きだけを定めた規程は、読まれず、守られません。使うたびに判断で迷う状態が続くと、利用そのものが避けられるようになります。

この記事では、3つの柱の決め方と、実際に運用できる9項目の構成、そして規程が形骸化する典型的な原因を整理します。2026年8月時点の情報です。

3つの柱を先に決める

何に使ってよいか(利用範囲)

「使ってよい業務」を列挙する形にしてください。除外リストだけを作ると、書かれていない業務の扱いが分からなくなります。

一般的な範囲としては次のようなものが挙げられます。自社の業務に合わせて調整してください。

  • 文書の作成・要約・翻訳
  • 資料や記録の調査、整理
  • 定型的な返信文の下書き
  • 集計と、集計結果の整形
  • 企画や設計の相談相手として使う
  • 社内向けの簡易なツールの作成

範囲を広く取ることを恐れる必要はありません。制限すべきなのは入力するデータの側であって、用途の側ではない場合がほとんどです。用途を狭く縛ると、使い道が見つからず定着しません。

何を入力してはいけないか(禁止事項)

ここが最も重要です。入力してはいけないものを具体的に列挙してください。「機密情報」のような抽象的な表現だけでは、現場で判断できません。

最低限、次の4つは明記します。

  1. 顧客・取引先の個人情報 — 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、契約内容
  2. 認証情報 — パスワード、APIキー、接続文字列、鍵ファイルの内容
  3. 未公表の経営情報 — 決算前の数値、係争中の案件、人事情報
  4. 契約で第三者提供が制限されている情報 — 秘密保持契約の対象になっているもの

あわせて、次の2つも禁止事項に入れておくことをおすすめします。

  • 人の確認を経ずに、生成されたものを外部へ出すこと — 顧客への送付、公開、本番環境への反映
  • 出所が不明なものを、確認せずに業務で使うこと — 実在しない機能やサービス名が提案されることがあります

入力してはいけないものだけを決めても運用できません。「渡してよいデータ」と「集計した値だけを持ち出すデータ」も併せて分類し、後者については元のデータを送信せずに集計結果だけを得る具体的な手順を用意してください。当社では、氏名・住所・電話番号・本文を取り出さずに集計した値だけを得る手順を実際の業務システムで運用しています。データの扱いと設定の考え方はClaude Codeを業務で使うときのデータの扱いと設定で整理しています。

生成されたものをどう扱うか(確認の規約)

原則は1つです。生成されたものであっても、それを使うと決めた人間が責任を持ちます。「AIが作ったから」は確認を省く理由になりません。

この原則から、次の3つを定めます。

  • 生成されたものにも、通常と同じ確認の手順を適用する
  • 生成物であることを記録に残す(後から遡れる状態にしておく)
  • 確認する側は、生成物に特有の間違い方を意識して見る

3つ目の「特有の間違い方」は、規程の中に具体的に書いておくと機能します。

  1. 必要以上に複雑になっていないか
  2. 存在しない機能やサービスを、実在するかのように使っていないか
  3. 確認処理が形だけになっていないか
  4. 認証情報が直接書き込まれていないか

9項目の構成

3つの柱に、運用のための項目を加えると次の構成になります。

#項目内容
1目的何のためにこの規程を定めるか
2適用範囲誰に適用されるか(従業員、業務委託先を含むか)
3利用可能な業務範囲柱1
4禁止事項柱2
5生成物の確認規約柱3
6データの取り扱い契約プランに応じた保持期間の遵守、機密度の高い案件での事前相談
7コスト管理利用状況の確認頻度、上限を超えそうな場合の連絡先
8インシデント対応誤って機密情報を送信した場合、生成物に起因する問題が起きた場合の報告先と手順
9改定履歴制定日と改定の記録

**8のインシデント対応は必ず入れてください。**誤って機密情報を入力してしまうことは起こり得ます。そのときに「報告すると叱責される」と受け取られる書き方をすると、報告されなくなり、対応が遅れます。報告することを推奨する書き方にしてください。

9の改定履歴も省略しないでください。次の節で述べるとおり、この規程は更新が前提です。

規程が形骸化する典型的な原因

完成させてから配ろうとする

AIツールは更新の頻度が高く、一度整えた規程も半年後には前提が変わっている場合があります。完全な規程を作ってから配ろうとすると、配る頃には内容が古くなります。

対処は、運用しながら更新する前提で作ることです。3つの柱だけを先に決めて配り、細かい項目は運用しながら追加してください。改定履歴の欄を最初から用意しておくと、更新することが前提だと伝わります。

遮断から始める

禁止事項を機械的に検出して遮断する仕組みを入れる場合、**いきなり遮断すると誤検知で正常な作業まで止まります。**手を止める仕組みは次第に敬遠され、迂回されるか、使われなくなります。

対処は、最初の2週間は記録だけの状態で運用することです。どういう入力が検出されるかの傾向をつかんでから、遮断に切り替えてください。遮断の対象も、形式が明確なもの(決まった並びを持つ認証情報など)に絞り、社名や人名のように曖昧なものは警告にとどめると運用が安定します。

守るべき設定を個人が変更できる場所に置く

規程で「これは禁止」と書いても、設定として強制されていなければ、個人の判断で外せます。規程と設定は対で用意してください。

設定は置き場所によって適用範囲と優先順位が変わります。会社として守らせたい内容は、個人が上書きできない場所に置いてください。この階層の考え方はチームでClaude Codeを使うときの設定と役割分担で整理しています。

誰も読まない長さにする

項目を網羅しようとすると、読まれない長さになります。**利用者が読むのは、柱の3つだけです。**残りの6項目は、管理側と、問題が起きたときに参照するためのものです。

対処として、利用者向けには3つの柱を1ページにまとめた要約を別に用意し、全文は参照先として置く形が扱いやすくなります。

業務委託先や外部スタッフの扱い

適用範囲(項目2)で見落とされやすいのが、業務委託先と外部スタッフです。自社の従業員だけを対象にした規程だと、外部の担当者が自社のデータをAIに入力する場合の基準がありません。

次の2つを決めておいてください。

  • **委託先が自社のデータをAIに入力してよいか。**入力を認める場合、どの分類までか
  • **委託先が生成したものを納品として受け取る場合の扱い。**生成物であることの申告を求めるか

委託契約書に条項として入れる場合と、規程を提示して遵守を求める場合があります。どちらの形を取るかは、契約の見直し時期に合わせて判断してください。

検索されている語から見た規程整備の状況

当社が調べたところ、社内規程に関する検索は次のとおりです。

キーワード月間検索数12か月変化率CPC(USD)
生成ai 利用規程50+9%4.00
ai 利用規程30+171%5.50
生成ai 社内ガイドライン30-8%7.39
生成ai セキュリティ 企業30-37%6.52
ai 導入 ガイドライン10+112%4.89

出典: ラッコキーワードのデータ(2026年8月時点・日本国内)をもとにした当社調査

「AI 利用規程」は12か月で171%、「AI 導入 ガイドライン」は112%増えています。いずれも検索の測定値が出始めたのは2026年2月以降で、比較的新しい語です。生成AIそのものへの関心から、社内で運用するためのルール整備へ、関心が移りつつあると見込まれます(根拠: 規程・ガイドラインを伴う語の測定値が2026年に入ってから出はじめ、伸び率が高いため)。

記述の例

抽象的な表現では現場で判断できません。書き方の違いを示します。

避けたい書き方判断できる書き方
機密情報を入力しないこと顧客の氏名・住所・電話番号・メールアドレス・契約内容を入力しないこと
適切に確認すること生成されたものは、通常のレビュー手順を適用したうえで使用すること
慎重に利用すること外部へ送付・公開・本番反映する前に、作成者以外の確認を経ること
必要に応じて相談すること判断に迷う場合は、利用を保留し、情報管理の担当者に相談すること

右側の書き方に共通するのは、「何を」「誰が」「いつ」が特定されていることです。この3つが欠けると、読んだ人によって解釈が変わります。

禁止事項では、代替手段も併記してください。「顧客の個人情報を入力しない」だけでは、顧客データを分析したい担当者の手が止まります。「個別のデータを渡さず、集計した件数や割合だけを得る手順を使うこと」と、できる方法を併記してください。禁止だけを並べた規程は、迂回されるか、利用そのものが避けられます。

周知の方法

作った規程が読まれるかどうかは、渡し方で決まります。

  1. **利用者向けには要約を配る。**3つの柱を1ページにまとめたものを配り、全文は参照先として置きます。全文を配ると読まれません。
  2. **利用開始時に一度説明する場を設ける。**文書を配るだけでは、疑問が出ても質問されません。30分程度でよいので、質問できる場を作ってください。
  3. **判断に迷ったときの相談先を明示する。**規程に書かれていない状況は必ず発生します。誰に聞けばよいかが分かっていれば、自己判断で進むことを防げます。
  4. **質問が出たら、その場で規程に追記する。**まとめて見直すより、質問が出たタイミングで追記するほうが実態に合った内容になります。
  5. **設定にも反映する。**規程で禁止した操作は、設定でも実行できないようにしてください。規程だけでは、意図せず違反することを防げません。

5については、**規程と設定の担当者が別になっていることが多いため、更新のたびに両方を直す手順を決めておいてください。**片方だけが更新された状態が続くと、規程と実際の動作が食い違います。

既存の規程との関係

多くの企業には、すでに情報セキュリティに関する規程があります。新しく作るか、既存に追補するかは次で判断してください。

  • 既存の規程が「情報の持ち出し・保存」を中心に書かれている場合 — 追補では収まりません。AIへの入力は、持ち出しとも保存とも性質が違うためです。独立した規程を作り、既存の規程から参照する形にしてください。
  • 既存の規程に「外部サービスの利用」の条項がある場合 — その条項の下位に、AIツール固有の細則として位置づける形が取れます。

いずれの場合も、次の3点は既存の規程では扱われていないことが多いため、明示的に書いてください。

  1. 入力した内容が提供元に送信され、一定期間保持されること
  2. 入力したプロンプト以外に、読み込んだファイルの内容や実行結果も送信されること
  3. 生成されたものの正確性は保証されず、確認の責任は利用者にあること

2は特に見落とされます。「ファイルを添付していないから送信していない」という理解は誤りです。作業の過程で読み込まれた内容は送信されます。

よくある質問

既存の情報セキュリティ規程があれば十分ですか

不足します。既存の規程は、情報を「持ち出す」「保存する」ことを前提に書かれていることが多く、**AIに入力して処理させるという行為が想定されていません。**特に、入力した内容が提供元に送信され一定期間保持されるという性質は、既存の規程では扱われていない場合がほとんどです。既存の規程に追補する形でも構いませんが、この点は明示的に扱ってください。

規程だけ作れば十分ですか

不足します。規程は判断の基準を示すもので、実際の制御は設定で行います。**規程と設定を対で用意し、規程で禁止したものは設定でも実行できないようにしてください。**加えて、利用者が詰まったときに聞ける相手を決めておかないと、規程を守ろうとして手が止まります。

どのくらいの頻度で見直すべきですか

半年に1回を目安にしてください。AIツールの仕様は更新の頻度が高く、扱える機能や既定の動作が変わります。あわせて、運用の中で「この場合はどうするのか」という質問が出たら、その都度追記してください。まとめて見直すより、質問が出たタイミングで追記するほうが実態に合った内容になります。

誰が作るべきですか

情報管理の担当者と、実際に使う部門の担当者の両方が関わる形が望ましくなります。情報管理側だけで作ると、現場で守れない内容になります。使う側だけで作ると、守るべき範囲が抜けます。実務としては、使う側が「何に使いたいか」を出し、情報管理側が「何を入力してはいけないか」を決め、生成物の扱いを双方で決める分担が扱いやすくなります。

まとめ

  • 柱は3つです。**何に使ってよいか/何を入力してはいけないか/生成されたものをどう扱うか。**この3つが決まっていれば利用者は迷いません。
  • 禁止事項は具体的に列挙してください。「機密情報」のような抽象的な表現では現場で判断できません。
  • **制限すべきは入力するデータであって、用途ではありません。**用途を狭く縛ると定着しません。
  • 全体は9項目の構成にします。インシデント対応は必ず入れ、報告することを推奨する書き方にしてください。
  • 形骸化の原因は4つです。完成させてから配ろうとする/いきなり遮断する/設定で強制していない/読まれない長さにする。
  • **規程と設定は対で用意してください。**規程で禁止したものは、設定でも実行できないようにします。

自社で作る場合は、3つの柱だけを先に決めて配り、運用しながら残りを追加してください。規程の作成や、設定への反映を相談したい場合は、お問い合わせからご相談いただけます。当社ではAIエージェント導入・構築支援として、データの取り扱いルールの整備から、設定への反映までを支援しています。

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